「あれ?もう起きちゃったんだ」
ソファに座って雑誌を読んでいたら、階段を下りてくる音に気づいてそちらを見上げる。
寝起きのままのボサボサ頭を掻きながら、エドワードはアルフォンスの隣にどっかりと座った。
「あ〜腹減った……」
足も体も伸ばしきって腹を押さえ空腹を訴える姿に、アルフォンスは苦笑した。
「ああ、もうお昼だね。でももう少し待てば、ウィンリィのアップルパイが食べられるよ?」
「ウィンリィ?」
「昨日言ってただろ? 明日はアップルパイを焼くから食べにおいで、って」
「…そう、だっけ?」
ぼんやりと思いにふけるエドワードの髪を、アルフォンスは整えるように撫でつける。
「まだ眠い?」
頭が回っていない様子のエドワードに苦笑を深めた。
その要因を作ったのは他でもないアルフォンスなのだから。
ぐらぐらしそうな頭を支えるように頬に手を当てた。
そういえば、と思い出す。
「そういえば、おはようのキスがまだだったよね」
ちゅっと、触れるだけのバードキス。
一度だけで離れると、至近距離から見つめたエドワードはむっとした顔をしている。
意味するところはただ一つ――そんなキスじゃ足りない。
起き抜けの頭でも、今のキスではお気に召さなかったらしい。
当然アルフォンスもこんな子供騙しなキスなんかじゃ物足りない。
でもそれ以上を求めれば、歯止めが利かなくなるだろうことも分かっていた。
「そんな瞳して……どうなっても知らないよ?」
くすくす笑いながら、口唇を合わせる。もっともっと深く…
夜にするような濃厚な口づけ。昨夜の余韻も相まって、すぐに体の奥が熱くなってくる。
「…ん……」
「もっとする? ウィンリィに見つかっちゃうかもしれないよ?」
全然困る風でもなく、むしろ楽しそうに、アルフォンスは感じ始めてきたエドワードの耳元で囁いた。
「……止める気なんか、ない癖に」
「一応、今ならまだ止められる、よ?」
「嘘つき」
悪態をつきながらも逃げる気のないエドワード。
もちろん逃がす気もないアルフォンスは、兄の身体を持ち上げ、自分の膝を跨ぐように向かい合わせに座らせた。
露わになった太腿からすっと服の中へと手を滑らせ、アルフォンスはおやと首を傾げた。
「下、何も着けてないんだ?」
今のエドワードの格好は、昨夜コトの後に着せたアルフォンスのパジャマの上着だけ。下着も着けていない。
「起きたらシャワー浴びるつもりだったし。別にこのままでもいいだろ?」
「そうだね。こうする時には、好都合だ」
着衣は肌蹴ることなく、中へと潜り込ませた片手でエドワードの性感を高めていった。
胸の突起を転がすように弄る。
「…っ!」
キュッと痛くないくらいの力加減で摘むと、エドワードの息遣いが荒くなった。
「なぁ…キス……」
「兄さんからしてよ」
感じ始めてきたエドワードはいつものようにキスをねだる。
だが今の体勢ではアルフォンスからするよりも、エドワードからの方が容易くキス出来るのだ。
キスが深くなるにつれ、アルフォンスは支えるように添えていたもう片方の手を、徐々に下ろしていった。
軽くノックするように触れさせると、エドワードの身体が僅かに跳ねる。
自分の手に反応してくれるのが嬉しくて、アルフォンスは口唇を合わせたまま口角を上げ微笑った。
それを兄は別の意味で捉えたらしい。
「笑うな…っ!」
無理やり口唇を振りほどいて、アルフォンスを睨みつける。目元が赤いままでは効果は半減だったが。
宥めるように、後ろに忍ばせた指を動かす。
昨夜自分が出したものが潤滑剤となり、さほどの抵抗もなくすんなりと解れてきた。
目の前にある耳をかりっと甘噛みしながら、
「…入れてもいい?」
エドワード曰く「腰にクル低音」で甘えるようにおねだりする。
ここまでされておいて止めさせるという選択肢はエドワードにもない。
けれど恥ずかしさから、小さく頷くことで肯定を示した。
アルフォンスは素早くズボンを寛がせて、このままの体勢でコトに及ぼうとする。
「こ、このままやんのか!?」
「だって、ここ、向こうの窓から見えちゃうよ?」
「え!?」
振り返ると、リビングに面した大きな窓が見える。
その向こうは玄関とは反対の庭になっているが、もし万が一そこから覗かれでもすれば、中で何をしているのか一目瞭然だ。
「この体勢なら、じゃれてるようにしか見れないって」
「ちょ…ちょっと待てっ!」
「それにこんな所、用がなきゃ誰も来ないよ。それより兄さん、声は少し抑えてね」
「ひぁ……!」
文句を言おうと開いた口は、突然の衝撃に声にならない声を上げる。
どれだけ解しても、昨夜もあれほどやったとしても、最初に挿れる瞬間は苦しい。
アルフォンスもそれを分かっているので性急には動かない。
徐々に呼吸を深くして身体の力を抜いていく。
全部が収まった時、お互いが深く吐息を吐いた。
そのタイミングがあまりにも揃っていて、顔を見合わせて微笑った。
愛しいという気持ちのままに、エドワードの顔中にキスの雨を降らせた。
金色の髪、形のいい額、コメカミ、赤く染まった目蓋、体温の上がった頬。
そして最後に口唇に触れる。
アルフォンスが触れる度にエドワードが身じろぎし、結合部から快感を連れてくるが、昨夜散々貪った後のせいか、余裕をなくさせるほどではなかった。
ただただ愛しさだけがこみ上げる。
労わるように、触れるだけの口付けを落としていく。
「…なぁ、ちゃんとしろよ……」
目元を赤く染め、照れたようにエドワードが呟く。
――それだけでは足りない
もちろん反論があるはずもなく、アルフォンスは笑みを深めて口唇を寄せていく。
と、一瞬エドワードから意識を逸らしたアルフォンスは、先ほどとは違った類の笑みを顔に浮かべた。
「この体勢じゃ、ボクからするより兄さんからの方がやり易いだろ?
 ……兄さんからしてくれる?」
「弟」の顔でねだれば、兄が否と言えるわけがない。
顎を上げて催促すると、照れながらもエドワードは口付けてくれた。
高い位置からの、エドワードからのキス。
いつもとは違う感触を受けながら、アルフォンスは下から腰を突き上げた。
急な刺激に反応して思わず口唇を離してしまった。
「ほら、ちゃんとキスしてよ?」
「お前……動いてたら、ちゃんとなんて…出来るわけない、だろ……っ」
「だって動かないと終わらないよ? それとも、ずっとこのままでいるつもり?
 ボクはそれでもいいけど…?」
エドワードは意地悪く聞くアルフォンスを睨み付ける。だが快楽に蕩けた目元では効果はない。
「それじゃあ、兄さんが動いてくれる?」
「……ちくしょ…っ……」
肩に置いた手に力を込め、しがみつく振りをして、その首筋に噛み付いてやる。
「…っ…!」
僅かに上がった声に機嫌をよくしたエドワードは、その部分を舌で舐める。
すると悪戯の罰とばかりに、アルフォンスからの突き上げが激しくなった。
「…ねぇ、ちゃんと動いてよ…?」
先ほどのエドワードの言葉をなぞって囁くと、ぎこちないながらも動いてくれた。
上がりそうになる声は合わせた口唇で塞いで、ただお互いを高め合う行為に没頭していった。

















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